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〔ナルコレプシー〕



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 ナルコレプシーは、日中に場所や状況にかかわりなく、眠り込んでしまう病気で、「居眠り病」「過眠症」ともいわれる精神疾患(睡眠障害)です。居眠りは一日に何度でも繰り返し起こります。

 ナルコレプシーになると、大喜びしたり、笑ったり、怒ったりなど、喜怒哀楽の感情変化が激しいときなどに、突然に顔や首、手足の力ががくんと抜けるような、情動脱力発作を伴う人が多いです。


 この場合、身体の力は抜けてしまうが、意識的には正常で周囲の状況は理解できています。

 ところかまわず眠り込んでしまう症状と、突然、手足などの力が抜けてしまう情動脱力発作の症状が長い期間続くようであれば、ほぼ確実にナルコレプシーの疑いがあります。

 ナルコレプシーの発作はところかまわず襲ってくるので、複雑な機械の操作や自動車の運転中などに発作が起きれば、重大な事故を誘発する危険性もあります。


 適切な治療を受ければ、日常生活に特別な支障をきたすことはないのですが、知名度の低い病気のため専門医の数も少ないので、診断や治療が受け難い状況にもあります。

 この病気の患者は、どの国にもいますが、日本での発症率は世界で一番高く、600人に一人くらいで、特に若年層の男性に多いです。欧米では4000人に一人くらいの発症率といわれています。



ナルコレプシー 〔ナルコレプシー〕という病気の説明です。
ナルコレプシーとは?

 ナルコレプシーの患者には、典型的症状として、寝入りばなや起床時に鮮明な怖い夢を見たり、金縛り、幻覚、幻聴を経験する人が多いです。金縛りとは、夢の中で逃げようとしても身体が動かせない、叫ぼうとしても声が出せないなどの状態になることをいいます。

 夢を見ることも多く、何か恐ろしいもの、幽霊とか自分の想像上の先祖とかが、身体に覆いかぶさってきたりするような、不気味で怖い夢を見たりしますが、見た夢はとても鮮明に記憶していることが特徴です。夢を見始めるとき、一瞬、意識がはたらき、「あっ、またあの夢だ!」という風に自分でこれから見る夢を予感してしまうことが起こります。

 夢を見、必死になって金縛りと戦っていると、突然、金縛りが解け、声が出せるようになる瞬間がきます。

 大きな声で「貴様、一体何なんだ!」などと叫び、覆いかぶさるものを振り払おうと拳骨の腕を振り下ろします。その瞬間、たったいままで、あれほど鮮明に見えていたあの不気味なものが一瞬にしてパッと消え失せます。意識が戻ったのです。

 しかし、その夢の一部始終は鮮明に記憶しているために、それからの数日間は夜間に眠ることに大きな恐怖心と不安とを抱くようになるのです。

 ナルコレプシーには、次のようなよく知られた症状があります。なお、これらの症状は、すべてが同時に全部発症するわけではなく時間をおいて発症するのが普通です。

ナルコレプシーの特徴的発作
睡眠発作

 ナルコレプシー発症時の典型的症状が睡眠発作であり、日中、突然に耐え難い眠気に襲われ眠り込むようになります。「居眠りの繰り返し」症状は、社会生活に少なからぬ影響を与えます。

 健常者が、自分の意思である程度睡眠をコントロールできるのに対して、ナルコレプシー患者は、激しい睡魔のために、発作的に眠りこんでしまいます。その時間は、ほんの数秒から、2、3分、10~30分などと様々で、一日に何回でも繰り返します。

 自分では目覚めていると思っていても、ほんの一瞬、2~3秒から1分以内ほど眠りに陥ることがあります。ほんの瞬間のことで、本人は眠ったという自覚はないのに、その間の記憶が飛んでしまい、何があったのか分からなくなることがあります。車を運転していて、気づいたら20メートル先を走行していたなどという感じになります。

 極端な例では、歩いている時、食事中、車の運転中、上司との面談中、電話の最中、試験の最中、歯の治療時、床屋で散髪時などにも、短時間眠り込みます。

情動脱力発作
(カタプレキシー)

 情動脱力発作は、カタプレキシーとも呼ばれる症状で、嬉しさや怒りなどの感情が昂ぶった瞬間に突然起こる、脱力症状です。首・全身・ひざ・腰・ほほ・あご・まぶたなどの姿勢筋の力が急に抜けたようになります。

 症状的には、周囲の人には気づかれない程度のちょっとした脱力感から、身体が崩れ落ちるような重症のものまであります。脱力発作自体は、数秒から数分で自然に回復しまが、そのまま眠り込んだり、幻覚を見たり、金縛りにあったりもします。発作の頻度はさまざまで、一日に数回から毎週数回などです。

入眠時幻覚

 入眠時幻覚は、睡眠発作により睡眠に陥った際などの寝入りばなに、本当に体験しているような鮮明で現実感の強い幻覚を見る症状です。

 入眠時幻覚では、幽霊などが突然身体の上に覆いかぶさってきたり、窓から忍び込んだ何者かが襲い掛かってきたり、化け物などの不気味なものが身体に擦り寄ってくるなどの幻覚が起こります。

睡眠麻痺

 恐ろしい悪夢は、強い恐怖心や不安感を誘引するので、心は逃げようともがいても、身体は麻痺してしまいどうしても動かすことができません。しかも、叫ぼうとしても声も出せなくなります。これが睡眠麻痺と呼ばれる金縛り状態です。金縛り状態では、意識があるのに随意筋を動かすことができないのです。

 ナルコレプシー患者では、就寝するとすぐに「レム睡眠」に入るため、身体は眠っているのに、脳はまだ起きている覚醒状態に近いのです。このため、脳は活動して夢を見ているけれども、脳からの指令は筋肉には伝わらず、身体は動かせません。こうして金縛りになるのです。

夜間熟眠障害

 ナルコレプシーの夜間の眠りは、寝付きはよくても途中で目が覚めやすく、健常者に比べると、日中に居眠りをする反面、夜間に熟睡できない等の障害が起こります。

自動症

 眠さを我慢しているとき、ほんの一瞬だけ眠りに入っても、身体の方はその直前に行っていたこと、普段行っていることを無意識に実行してしまうのが、自動症あるいは自動行為です。

 授業中、ノートをきちんと取っているつもりでも、後で見たらミミズが引きずったような意味不明のことが書いてあったり、パソコンで仕事中にマウスを押そうとしていないのに手の方が勝手に動いてしまったりします。極端な例では、家に帰ろうとしているのに、自宅を通り過ぎてしまったり、知らない駅で途中下車してしまったりします。

その他

 眠気を我慢しているとき、頭重、頭痛がします。また、肥満、多汗症、糖尿病が合併することもあります。

 学校や職場で居眠りによる失敗が続くと、自信喪失となり、消極的、受動的、内向的になり、対人関係を嫌うような「ナルコレプトイド性格変化」と呼ばれる症状がでてきます。


ナルコレプシーの原因

 ナルコレプシーの病因としてオレキシンという物質の欠乏が明らかになっています。オレキシンは、脳の視床下部から分泌される神経伝達物質で、通常は食欲をコントロールする作用があります。

 また、ナルコレプシーになりやすい遺伝的体質と、ストレスなどの環境因子が重なって起こるとも考えられます。大部分は特別のきっかけは分かりません。頭部外傷、手術、大出血、睡眠不足などの大きな身体的ストレスを経験した直後に発症することがあります。

ナルコレプシーの診断

 病院で行われる睡眠障害の検査には次のようなものがあります。

ナルコレプシーの検査診断
問診



日中の睡眠ポリグラフ検査



終夜睡眠ポリグラフ

 一晩中の睡眠ポリグラフを検査します。

睡眠潜時反復検査

 日中の眠気の強さを測定するもので、2時間ごとに一日4回30分づつ睡眠ポリグラフを測定します。

覚醒維持検査

 眠気を我慢できる程度の検査で、2時間ごとに一日4回30分づつ睡眠ポリグラフを測定します。

血液検査

 HLA(ヒト主要組織適合抗原)を検査します。HLA-DR2とDQ1の陽性、陰性を判別します。日本人ナルコレプシー患者では全例でHLAーDR2とDQ1が陽性です。

睡眠記録表

 睡眠記録表とは、24時間の覚醒、睡眠の状態を専門の用紙に記録します。医師はナルコレプシーの診断や治療効果の判定に用います。また、自分でも睡眠生活が不規則であるかどうかを自覚する上で大切です。

Epworth Sleepiness Scale

 8つの社会生活場面で眠気がどの程度の頻度で起こるかを自分で記入する調査用紙です。過去1週間の平均的な眠気の状態を記入します。


ナルコレプシーの治療

 現状では、ナルコレプシーの根治的治療方法はなく、対症療法となります。治療には、薬物療法と、生活習慣を改善する療法が重要です。

 薬物療法では、夜の眠りを安定させ、更に精神賦活剤の朝昼時服用で、日中の居眠りを防止できるようになり、社会生活は普通にできるようになります。症状が安定してくれば薬の量も減らせるようになります。